【遺言を作成した方が良い方】
第20話 複数の子供がいるが一人の子供に過去に不動産など大きな贈与をしている方

相続・遺言コラム

生前に贈与をする理由

例えば、図の相続関係のように子供が2人いて、1人の子供(長男)とは同居しているが、もう一人の子供(二男)とは、絶縁状態の父がいるとします。事案を完結にするため、母は先に死亡しているものとします。

父と二男が絶縁状態の場合、経験上、ほぼ漏れなく父と同居の長男と二男の関係も絶縁状態となっております

そうすると父としては、自分が将来死亡したときには、長男と二男が遺産分割協議をできないから生前に少なくとも家は贈与しておこうと考える傾向があります。

贈与よりも遺言を作成し遺言の執行時に自宅を長男に相続させる方が税金面(登録免許税や不動産取得税の観点)でもメリットがあるため、自宅についても急いで生前贈与しないで、相続発生時に遺言執行で相続させるのがおすすめではありますが、不安定な状態を少しでも解消したいと考え生前贈与をすることもあります。

生前贈与した父としては、当然、将来の遺産分割の際には、贈与した財産を持ち戻して計算するなどは想定していないのですが、黙示的な持ち戻し免除の意思表示(民法903条3項)であると遺産分割の際も生前贈与を受けた方の特別受益(民法903条)として相続財産に持ち戻された状態で長男と二男が残る預貯金3000万円についてのみ遺産分割協議をすることとなります

参考条文

(特別受益者の相続分)
第九百三条 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3 被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う
以下略

民法

* 上記の下線部分が持ち戻し免除の意思表示の規定の条文となります。

持ち戻し免除の意思表示とは

今回の事例でいえば、贈与した父が、今回の不動産の生前贈与は、相続財産に持ち戻さないでほしいと書面に残すことが持ち戻し免除の明示の意思表示となります。

持ち戻し免除の意思表示という言葉を使いましたが、わかりにくい概念(用語)と思いますのでできるだけかみ砕いて解説します。

基本的に、紛争性のない円満な相続案件であると死亡日の財産を基準にして残った遺産に対して分割協議をすることとなります。過去の経緯は、相続人同士がわかっていることが多いため、行政書士が扱う特に紛争性がない遺産分割案件では、相続人同士の阿吽の呼吸で遺産分割が決まります

ところが、弁護士の領域となる紛争性のある相続案件では、必ずしも死亡時の財産を基準とするわけではなく、過去の大きな生前贈与(特に、不動産の贈与や子供の住宅購入時の百万以上の贈与)なども特別受益として相続財産に持ち戻されることがあります

生前に贈与を受けていない相続人にとっては、過去の生前贈与の分も相続財産に持ち戻してもらわないと法定相続分の計算をするうえで不利益がありすぎると考えるため、過去の生前贈与の額を持ち戻すことを弁護士の方と相談の上相手方に告げます。

他方、生前贈与は、財産を所有している方の自由意志によって特定の方に贈与しているのであるから、贈与者の意思を尊重すると、持ち戻し免除の意思を黙示的にでも持っているといえます。

ただし、持ち戻し免除の黙示の意思表示というのは法的に不安定(最終的に裁判官が決めるためそれまで持ち戻し免除の黙示の意思表示が実際に法的に認められるかはわからない)ですので、持ち戻し免除の意思表示は少なくとも明示的に行った方がよいといえるでしょう

公正証書遺言の作成+持ち戻し免除の明示の意思表示が有効な場合もあり

公正証書遺言は、手続が厳格なので遺言の無効を主張される可能性がとても低いです。無効主張が認められることはほぼほぼないでしょう。そのため、持ち戻し免除の意思表示をするのであれば遺言によって明示的に行うのが良いでしょう

例えば、全部を一人に相続させるとした遺言を作成すると、いわゆる‘‘兄弟姉妹相続事案’’を除き、受遺者に他の相続人に対する遺留分侵害の可能性が生じます

持ち戻し免除の意思表示をするのは、遺留分侵害請求に対しては、法的には、あまり意味をなさないとも言えます。

なぜなら、判例では、遺留分侵害については、持ち戻し免除の対象外となるからです。

ただし、遺言者の生前贈与については持ち戻さないでほしいという明確な意思表示があることは伝わりますので、私見ですが、遺言や相続の実務に携わる者としては持ち戻し免除の意思表示は、有益な記載となると思います

付言の記載も今回のような生前贈与がある事例では大切

公正証書遺言には、本文のほかに、付言という項目があります。付言とは、法的には意味をなさない記載ではあるが、自由に遺言者の気持ちなどを書くことができる場所です。通常は、付言は、本文の後に付け足しの言葉のような形で記載されます。

この付言の項目で、遺言によって取り分が少なくなった、あるいは何も取得しない形となった方への配慮の言葉があると、遺留分侵害請求を起こされないようにすることも期待できます

相続問題というのは、親族間の争いですので、ほとんどのケースが過去に生じた出来事などに対する感情問題です。親族間では、感情問題が解決できれば金銭的問題は起きないことが十分期待できると思います。

まとめ

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今回の遺言を作成した方が良い方第20話については、細かな法律についても触れ難しい解説となりましたが、遺言を検討するきっかけになっていただければと思いまして書きました。

相続や遺言に関する相談は、最終的には、実務に精通している専門家に直接相談するのが一番ですので、お困り、お悩みの方がいましたら一度ご相談いただくとよろしいかと思います。

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