【遺言を作成した方が良い方】
第7話 相続人の一人が「父の死亡後はきっちり均等に分けたい」と言っている場合
相続・遺言コラム
「きっちり分けたい」という発言は要注意
70歳を超えある程度のご高齢になると「我が家は遺産相続の際揉めてしまうかもしれないから、遺言を作った方が良いのかな」と、ふと思うことがあると思います。
自分が死亡した時に、残された家族には揉めてほしくないと考えるのは、親であれば当然といえます。
土地の値段が比較的安い北海道では、子供のいる夫婦の夫が一軒家やマンションなどの住宅を購入することが多く、住宅を購入する方は一定の収入があるため、預貯金もある程度残る傾向があります。
一般的に、平均寿命といわれている81歳で男性が死亡した時、住宅ローンは完済していて、自宅土地建物(住宅)+預貯金(借金なし)という財産構成(遺産構成)となっていることが多いです。
そのような男性の家族の一人が、「父親が死亡した時には、きっちり法定相続分をもらいたい」などと発言している場合には要注意です。
住宅という不動産があると遺産をきっちりわけることは難しいため、将来父親の相続が発生した時に自分の取り分に納得がいかず、遺産分割に合意しないということが予想されます。
そのため、将来の相続人(推定相続人)の一人が、権利意識が日頃から高く、「父が死亡した時は、遺産をきっちり分けたい」などと発言している場合には、要注意といえるでしょう。
遺言を作成しなかったために遺産分割協議で揉める相続の具体例
事案
父、母、長男、長女の4人家族。
父、母、長男は北海道恵庭市在住(同居)、長女は結婚して東京23区内に住んでいる。
父の財産は、恵庭市の住宅(土地建物、築30年のスウェーデンハウス施行住宅)と預貯金500万円。
恵庭市の住宅の固定資産税評価額は、土地と建物を合わせて700万円。不動産業者の査定では、仲介成立予想価格が1000万円と出ている。
父の生前から、長女は「私は結婚してから一度も親から援助を受けたことがないため、父が死亡した際には自分の分け前はきっちりともらう予定だ」と何かにつけて話していた。
その後、父死亡。
父の相続発生後
父が死亡後、長男を中心に調査して長女の取り分を計算し、「住宅700万円+500万円=1200万円(相続財産)なので、4分の1の300万円でどうだろうか」と長女に打診すると、思いもよらない返事が返ってきた。
「人気のスウェーデンハウス製の住宅が700万円と計算するのはおかしい。スウェーデンハウスの住宅にはもっと価値があるはずだから、住宅を1000万円と計算し、私の取り分は1500万円(査定価格1000万円+500万円)の4分の1で、少なくとも375万円となるはず。これ以下であれば、絶対に判を押さない」と長女が主張してきた。
このような事案は実際によくあることです。
争族にならないための対策
自分の相続が発生した時にいわゆる“争族(家族が争う)”にならないようにするには、結論を言えば、公正証書遺言を作成することが一番です。
公正証書遺言であれば、遺言の無効を争う調停や訴訟を起こされるリスクが限りなく少なく、相続財産に対して、公正証書遺言に書いてある内容の通りに遺言の執行をすることができます。
公正証書遺言であれば、遺言の無効を争う調停や訴訟を起こされるリスクが少ない理由としては、公正証書遺言の制度には遺言が無効とされない仕組みがあるからです。
- 無効とされない仕組み1:公証人が遺言者の口述を聞きその上で作成したとする建前を取られており、公証人は元裁判官、元検察官など法律家である。
- 無効とされない仕組み2:利害関係のない証人2人の立ち会いのもと作成される。
- 無効とされない仕組み3:不完全な内容の遺言(遺言執行者の記載漏れ、人物特定ができていないなど)を作成する恐れが少なく、内容が明確となる。
- 無効とされない仕組み4:受遺者は、遺言の読み上げ時に同じ部屋にいることができないため、遺言作成時に受遺者の意向を強制されることがない。
このように、公正証書遺言には遺言が無効とならない仕組みがあるため、遺言を作成するなら公正証書遺言を作成することをお勧めします。
(公正証書遺言)
民法
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
※ 重要部分に当事務所で下線を引いております。
生前の対策を誤るとかえって事案を複雑にさせることもあり
最近、家族信託という言葉をよく耳にしますが、家族信託の専門家に勧められるがままに、安易に家族信託契約を結ぶというのは、当事務所ではお勧めしておりません。
なぜなら、家族信託は、公正証書遺言や委任および任意後見契約でも補いきれない部分をカバーするスキームで、正攻法の相続対策とは言えないと考えるからです。
家族信託の専門家にとっては、報酬を高く取りやすいメリットがあるので、積極的にセミナーなどを開催して家族信託の集客活動をしておりますが、お客様にとっては、公正証書遺言で十分なのに、余計な信託契約を結び事案を複雑化してしまうというデメリットがあります。
少なくとも、今回挙げた一般家庭の事例では、家族信託などのスキームを採用する必要性はまったくないと当事務所では考えます。
おそらく一般のお客様は家族信託のセミナーに何度参加しても、結局「いまいちよく分からなかった」という感想で終わると思います。
そのよくわからない最大の理由は、信託財産が誰のものか(所有権の帰属)が明確ではないからです。
相続分野に関わる専門家の責任
専門家が相続に関わる場合、相続発生前の対策をして終わりというわけではなく、相続が実際に発生した後、責任をもってその後の財産の行方を説明し、それを実現できるようにすることが大切です。
家族信託は、本当に契約通りに進むのか不明確なところもあり、予測不可能なことが起こることが十分考えられます。
したがって、たまき行政書士事務所では、家族信託をおすすめすることはありません。
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