紀州のドンファン事件から学ぶ遺言の効力について

相続・遺言コラム

紀州のドンファン事件とは

事件概要

紀州のドンファン事件とは、和歌山県田辺市で会社経営をする資産家男性Nさんが何者かにより覚せい剤の経口接種等の手段で殺害された事件です。

Nさんは生涯プレイボーイであることを自称しており、世間でもスペインの伝説のプレイボーイ“ドンファン”に例えて、“紀州のドンファン”と呼ばれておりました。

2つの大きな争点

紀州のドンファン事件は、Nさんの殺害時、Nさんには自身より50歳以上も若いSさんという妻がいて、結婚してから3カ月しか経っていませんでした。

そして、SさんがNさんを殺害したのではないかと、ワイドナショーなどで注目を浴びました。

そして、2021年4月28日にSさんが逮捕されたことで、事件が再び注目を浴び、刑事事件として大きく動き出しました。

紀州のドンファン事件の争点は、

  • 争点1. 誰がどのように殺害したのかという点(刑事事件)
  • 争点2. 自筆証書遺言の効力という点(民事事件)

の2つです。

今回のコラムでは、相続の専門家の観点から、2つ目の争点である自筆証書遺言の効力について解説したいと思います。

自筆証書遺言とは

自筆証書遺言とは、遺言を残したい本人が、自筆(直筆)で、誰にどのくらい自分の財産を渡したいかを記載するものです。

形式的用件は非常にシンプルで、その書面が、

  • 1. 遺言であることがわかること(例えば、遺言書というタイトルを付ける)
  • 2. 自筆であること
  • 3. 明確な日付が記載してあること

が必要です。

紀州のドンファン事件での自筆証書遺言の争い

自筆証書遺言の検認について

紀州のドンファン事件で出てきた遺言には、不自然な点が多々あります。例えば、本人の自筆と思われる赤い字で、「いごん 個人の全財産を田辺市にキフする」と書かれていました。

この遺言には、日付も「いごん(遺言の意味)」というタイトルも書かれており、「キフ」は文脈から“寄付”と解釈できるので、自筆証書遺言として形式的には有効となります。

このような遺言は、家庭裁判所に検認の申立てをすると(形式上は)有効となることが通常です。

そのため、相続人の誰も異論を唱えなければ、遺言に検認したことを証する書面がホチキスで留められて、銀行の手続き等で利用できます。

自筆証書遺言を争う兄たちの意向について

紀州のドンファン事件では、自筆証書遺言の実質的な効力について、紀州のドンファンNさんの兄らが争いました。

具体的には、Nさんの兄らが自筆証書遺言は無効だと主張して争いました

Nさんには子供がおらず、両親等の尊属も死亡しているので、Nさんの相続人は、妻と、兄弟姉妹(Nさんよりも先に死亡している兄弟姉妹がいれば、その代襲相続人)となります。

遺言が有効である場合、兄弟姉妹には遺留分減殺請求権がないので、1円も遺産が入らないことになります。そこで、自筆証書遺言が無効であると主張して、法定相続分を取得したいと考えることになります。

参考記事

遺留分とは

兄弟姉妹相続事案では、妻の遺留分は全財産の2分の1

仮に、紀州のドンファン事件に遺言がなければ、遺産の分け方は妻が4分の3、兄弟姉妹の合計が4分の1となります。

紀州のドンファンNさんは遺言を書いたので、その遺言が有効とされた場合には、

  • ⅰ. 田辺市が一旦100%の遺産を受け取る
  • ⅱ. Sさんが遺留分減殺請求をする

という流れとなります。

もし、Sさんが逮捕後、Nさんを殺害したとして有罪となった場合には、遺産を相続することができない相続人欠格事由(民法891条1号)となりますので、紀州のドンファンNさんの支払うべき債務を支払った後の残額を、田辺市が受け取る形となります。

遺産総額推定30億円といわれるような資産家の遺産分割は、スムーズにいかないことがほとんどですので、Sさんの立場からすると、法定相続分22.5億円(30億円×3/4)を将来的に受け取るよりも、遺留分減殺請求で15億円(30億円×1/2)を田辺市に請求し、遺産を手にすることの方が合理的であるともいえるかもしれません。

(相続人の欠格事由)
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

民法

仮に、公正証書遺言を作成していた場合

自筆証書遺言はトラブルが多い

仮に、紀州のドンファンNさんが自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を作成していた場合には、どのような結論となったでしょうか。

自筆証書遺言は、通常、自分一人の密室遺産を将来渡したい人がいる前で書くので、

  • ⅰ. どのような状態で書いたのか(精神上の問題)
  • ⅱ. 無理やり書かされたのか(強要の有無の問題)
  • ⅲ. 他人がなりすまして書いたのではないか(偽造の問題)
  • ⅳ. 内容が不自然すぎる場合そのようにした合理的理由があるかどうか

も問題となります。

簡単に言うと、自筆証書遺言は突っ込みどころが多い遺言といえます。

なお、民法改正で法務局に自筆証書遺言の保管制度ができましたが、相続の専門家の観点からすると問題点が多いという点は変わらないといえます。

公正証書遺言の方が安心

これに対して、公正証書遺言は、元裁判官や元検察官など、利害関係のない公証人二人の面前で、本人確認後、法律上明確な表現で記載するので、無効を主張されるリスクが限りなく少ないです。

また、相続手続の実務では、自筆証書遺言と公正証書遺言では信頼度も違うため、公正証書遺言の方が相続手続きがスムーズに進みます

以上の事情を総合すると、相続の実務家の観点からは、遺言者の健康上問題がなければ、公正証書遺言を作成することを強くお勧めすることとなります

遺言は意外と奥が深いので専門家にご相談を

遺言は、

  • ⅰ. 法律上の観点
  • ⅱ. 手続き実務上の観点
  • ⅲ. 相続人との感情の観点

から、作成するかしないかを含めて総合的に考える必要があります。

遺言を書くべきか、書かないべきか迷った場合、相続や遺言の実務を多く経験している専門家に相談するのがよいでしょう

行政書士や司法書士、弁護士には、依頼者が話されたことを他に漏らさない守秘義務が当然にありますので安心です。

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