【遺言を作成した方が良い方】第14話
財産の構成で株式や投資信託の割合が大きい方

相続・遺言コラム

株式や投資信託をしている方は要注意

ご自身、またはご家族の財産の構成で、株式や投資信託の割合が多い方は、死亡後に相続人が遺産分割で苦労する、あるいは、揉める可能性があるため要注意です

将来、ご自身の相続人が遺産分割で苦労したり、揉めたりする可能性が高いため、これらを回避するため遺言(特に、公正証書遺言)を作成することを検討した方がよいでしょう

今回のコラムでは、財産構成で、株式や投資信託の割合が大きい場合になぜ、相続が発生した際に相続人が苦労したり揉めたりするかについて具体的に解説します。

株式や投資信託を保有の方が亡くなると相続人が苦労する理由

株式の相続手続きが大変

残された相続人は、仮に、円満な相続人関係であったとしても、多くの場合、相続手続きの際にとても苦労します。

より詳しい解説は、「証券(株式)の相続でお困りの方へ」で書いておりますが、証券会社にある株式や投資信託を相続するときの手順を簡単に解説すると以下のようになります。

なお、お亡くなりになった方の出生から死亡までの戸籍の収集や、相続人の方々全員の印鑑登録証明書の取得は、銀行の相続と同様に必要となります

証券会社にある株式や投資信託を相続するときの手順

証券会社に死亡日時点での残高証明書の発行を依頼する。

各銘柄ごとに株主名簿管理人を確認する。例えば、北海道に関連する企業として2つ例を挙げると、

  • 日本ハム株式会社は、三菱UFJ信託銀行が株主名簿管理人
  • 株式会社ニトリホールディングスは、三井住友信託銀行が株主名簿管理人

です。株主名簿管理人は、株主名簿の管理と配当金の分配作業を委託されている企業です。管理と書いておりますが、主に信託銀行や信託会社が行っております。

株主名簿管理人がわかったら株数証明と未受領配当金の確認をします。株数証明を取得する理由は、信託銀行に単元未満株(通称:端株)などが存在している可能性があるからです。単元未満株は、証券会社にある場合もあれば、信託銀行に残っている可能性もあります。もしも、信託銀行に単元未満株があれば、信託銀行に単元未満株式の相続手続きを行うことになります。

未受領配当金とは、簡単に言うと株式を保有していた方が、生前に受け取りを忘れてしまった配当金です。配当金は、一定の期間受け取り忘れると信託銀行に戻ってしまいます。相続人の方は、この戻ってしまった配当金を回収する相続手続きが必要となります。

相続手続届け(株式移管の依頼書)の提出前に、株式を受け取る相続人の方が、被相続人の契約していた証券会社と同じ証券会社に証券口座を作ります。例えば、野村證券の証券口座を被相続人が契約していて、そこに株式を複数預けていたならば、相続人の方は、野村證券に口座を作る必要があります。相続人の方が大和証券に既に証券口座を開設していたとしても、基本的には、野村證券の口座を新たに開設する必要があります

遺産分割協議書と、株式を受け取る相続人が署名押印をした相続届に、相続人全員の印鑑登録証明書を添付して提出、あるいは、相続人全員が署名押印をした相続届に、相続人全員の印鑑登録証明書を添付して提出し、相続手続きを完了させます

以上のような流れとなりますので、たとえ、相続人の方同士が円満であったとしても手続きで苦労します

遺言(特に公正証書遺言)を作成しておくと、株式を受け取る相続人以外の印鑑登録証明書の提出と、署名押印が省略できます。

相続人同士が揉める理由

株式と投資信託いずれにもいえることですが、

  • ① 一見、分けられるようで分けにくいものである
  • ② 金額(評価額)がいつまでも確定しない

ということがあります。

例えば、推定相続人(財産をお持ちの方が死亡したとすると、現時点での予想される相続人)が2人(兄弟)、財産構成が預貯金合計500万円、株式投資信託の評価額合計が500万円、基本方針が兄弟2分の1ずつ分けるというものであったとすると、意外とどのように分けてよいのか決まりません

株式投資信託の評価額合計が500万円としましたが、この評価額は常に変化しており、この変化があることも分ける際に困難となる要因となります

兄弟とも、株式や投資信託に興味がない場合には、預貯金を多く取得することを望みます。

また、財産構成が預貯金合計300万円、株式投資信託の評価額合計が700万円であるとすると、さらに分けるのが困難となります。

お互いに自分に有利になるように主張し合い揉めることが考えられます

生前に株式や投資信託を保有している方が行った方がよいこと2つ

① 公正証書遺言を作成する

一つ目が公正証書遺言を作成することです。公正証書遺言を作成しておけば基本的に、生前に財産の行方を指定することができます。例えば、現金300万円はAさん、その他株式投資信託のすべてをBさんと指定することができます。

② できるだけ株式と投資信託の比率を下げる

二つ目の行った方が良いことは、できるだけ株式と投資信託の比率を下げることです。

例えば、株式と投資信託の合計が総財産の10%であったとすると、仮に遺言を作成していなかったとしても遺産分割協議が成立しやすくなります。

比率を下げるための具体的な策としては、株式、投資信託を換金することです。換金したものをMRFや普通預金に資金移動しておくと、将来相続が発生した時に遺産分割協議が成立する可能性がグンと高くなります。

参考記事(MRFについて)

故人の証券口座内にある〇〇MRFとは

株式や投資信託とは

最後に、そもそも株式や投資信託がよくわからない方もいると思いますので、株式と投資信託について解説します。

株式とは、一番多いのが証券会社で保管してもらっている上場企業の公開株式です。

もっとも、家族経営の自社株式も別の観点で問題となりますが、今回のコラムでいう、株式とは上場企業の公開株式を想定して記事を書いております。

もう一つが投資信託です。投資信託とは、簡単にいうと、ご自身のお金の運用(資産運用)をプロに託しているものです。具体的に投資信託とは、〇〇インデックスファンド、○○ファンドラップ、○○MRFなど複数の株式や金融商品を組み合わせたものが一般的です。株式の組み合わせの他に、不動産投資をするための資金を証券化し、収益分配金を目的とした金融商品であるJ-REITというものも投資信託の一種といえます。

このほかにもいろいろなお客様のお金をその道のプロに託した資産運用方法がありますが、これらすべてを総称して、投資信託と呼ばれていると考えればよいでしょう。

例えば、年に3回ほど証券会社から届く、取引残高報告書という書類には、株式と投資信託を区別して表記されておりますので、何が投資信託かはすぐにわかります。

投資信託で一番有名なのが、日経225インデックスファンドであり、これは皆さまテレビなどで聞いたことがあると思います。

銀行も投資信託ビジネスに参入?

投資信託はかつて、証券会社で保管されていることがほとんどでしたが、現在は、銀行も投資信託ビジネスに参入しており銀行の投資信託口座に預けられていることもあります。銀行は、貸金業の本業の他に、投資信託の売り買いの際の手数料を得るビジネスを近年盛んにしております。

例えば、北海道で利用者の多い地方銀行である、北洋銀行の預金の相続手続きをしていると、北洋銀行の投資信託口座に投資信託が保管されていることも少なくありません。

1000万円を超える普通預金を北洋銀行に有している方であれば、一度は北洋銀行から投資信託の勧誘を受けたことがあると思います。

相続が発生して1000万円以上の大きな預金が北洋銀行間で動いた場合には、ほぼ間違いなく投資信託のお誘いがあります。

株式や投資信託の問題点

ご自身で資産運用している間は、値下がりリスクも自分、値上がりを楽しむのも自分でありますが、株式や投資信託の相続における問題点は、値が確定していないことです。日々変化しており、額が定まりません。

相続税申告をするときの観点(税法上)は、一定の基準がありますが、将来、その株式や投資信託を保有している方が亡くなった時の遺産分割の際(民法上)には、この値が確定していない、常に動いているというのが問題となります

また、株式や投資信託は、確かに、100株や1万口など分けることは理論上できなくはないですが、分けると単元未満株式となってしまったり、遺産分割が確定するまでの配当の分配が複雑になるなど、遺産分割の際に分割すると苦労したりすることがあります。

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