相続した空き家を近所の方に譲るとき贈与と売買どちらが良いか?
相続・遺言コラムよくある事案
北海道の地方都市(人口1万人規模)で一軒家をお持ちの方の相続が発生すると法定相続人の一人(例えば、長男様など)が空き家になった一軒家(実家)を相続します。
取得した相続人の方が札幌市などですでに一軒家を構え、自身の配偶者や子供がいると実家に住むということはほとんど考えられないため、空き家となった実家の売却を検討します。
しかし、相続を原因として一軒家を取得しているため、多くの場合、空き家となった実家が築35年以上過ぎていることがよくあり、老朽化のため、全くの知らない他人に売るには多少直さないと難しい、そのままでは売れないということがあります。
顔見知りの近隣の人に譲るという選択肢もあり
地方都市に住んでいる近隣の方は良く状況を見ており、相続が発生すると近隣住民は空き家になっていることを把握します。
先の例でいえば、札幌市に住む長男が1カ月に一度くらい空き家の片づけなどをしていると「そのまま息子が使いたいといっているので譲ってほしい」などと立ち話でいわれることがあります。
今回のコラムは、そのような近所の方にお譲りするときに贈与という形式をとった方が良いのか、売買という形式をとった方が良いのかという話になります。
所有権移転の原因としては贈与か売買いずれかの形式となる
相続した空き家の場合、法定相続人の一人が取得した一軒家を近隣の方に譲る場合、贈与を原因とする所有権移転登記か、売買を原因とする所有権移転登記とするのかを決める必要があります。
結論から申し上げると、多くの場合、贈与を原因とする所有権移転登記をする方が無難であるといえます。その方が譲る方も譲られる方もリスクが少なくなります。
以下、具体的に贈与にした場合と売買にした場合のかかる費用などを検討してみたいと思います。
事案の設定として、不動産を取得した法定相続人は、給与所得者(サラリーマン)とします。
贈与を原因とする所有権移転の場合
贈与を原因とするときは、贈与契約書を作成します。難しい言い回しは必要ないですが、対象の不動産の表記に加え、現状有姿で引き渡すという文言を入れた方がよいでしょう。
現状有姿とは、測量や境界確定、該当の土地上にある庭石なども含めそのままの姿で引き渡すというものです。
贈与契約の場合、不動産価格が110万円を超えると、贈与税が発生します。例えば、令和4年11月中に贈与契約及び所有権移転登記が完了した場合、令和5年2月1日から令和5年3月15日の確定申告期間に贈与税の申告納税をする必要があります。
不動産が絡む税申告はとても複雑ですので、通常は、税理士に確定申告を依頼する形となります。そのため、贈与の形式をとった場合、贈与税と税理士報酬及び登録免許税(不動産価格の約2%)がかかります。
ただし、登録免許税については、贈与も売買もパーセンテージが変わらないため、贈与と売買の比較ではあまり考えなくてよいものになります。
結論として、贈与の形式により近隣の方へ所有権移転登記をした場合、譲る方は、かかるものほぼなし、譲られる方は、贈与税と税理士報酬、登録免許税がかかります。
行政書士や司法書士に贈与のサポートを受ける場合には、このほかに業務報酬がかかりますが、慣習として譲り受ける方がその業務報酬を支払うことが多いです。
売買を原因とする所有権移転の場合
固定資産税評価額程度の価格で売買
他方、例えば、ある程度の値段で売買するという方法があります。ある程度の値段とは、例えば、固定資産税評価額程度の売買価格とすることです。
その場合、売主は、売却代金は取得しますが、原則として不動産譲渡所得税の申告をする必要がありますので、翌年の確定申告時期に税理士に依頼し確定申告をする必要があります。
毎年得ている給与所得にプラスαとなる所得の申告になりますので、翌年の住民税、健康保険料が通常は1年間のみ増額します。
ただし、売買代金を得ておりそれ以上に税理士報酬や各種税金の合計が高くなることはあまりないため、“損”はしないといえます。
買主側としては、売買代金を売主に支払うため売買代金と、登記申請時に添付する印紙代として登録免許税を支払う必要があります。
ただし、確定申告などは基本的にしなくてよいため(住宅ローンを組んで購入した場合は減税となるため確定申告が必要)、手間としては、軽減できるといえます。
このように固定資産税評価額を参考に売却額を決定すれば、特に問題になることはないのですが、北海道の地方都市(人口数千人規模もしくは1~3万人程度)の場合、売却額をもっと低くしないと近隣の方が欲しいと言わないケースが多いです。
超少額(10万円以下など)での売買とした場合
そこで、考えられるのが例えば、10万円程度で売買するという方法です。
当人同士が10万円と決めれば民法上は何ら問題ないですが、税法上、実質的には贈与とみなされる可能性があります(贈与税の支払いを免れるための売買であるといわれる危険性があります)。
そのため、せっかく当事者同士で納得した売買でも後で税務署のお知らせなどが来て不快な思いをする可能性があります。
したがって、10万円程度のような少額の金額で取引(売買)するのであれば、後腐れなく、贈与とした方がよいでしょう。
発展編
また、当事務所で近隣の方と少額の売却額による売買を避けた方がよいと考える理由の一つとして、売買とすると売主の契約不適合責任という責任が原則発生するからです。
現在は、従来存在した特定物の瑕疵担保責任という規定よりも、売主の責任が重い法制度となっており売主には、契約内容に適合していない物件を売った場合、売買後でも修補請求や減額請求、損害賠償請求や解除がなされることがあります。
そのため、そのような重い責任を負わないためにも売買ではなく、贈与の形式をとった方が良いでしょう。
(買主の追完請求権)
民法
第五百六十二条
第1項 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。
第2項 (略)
空き家の相続が発生した場合は専門家に相談しましょう
北海道の相続では、空き家の相続が発生することが非常に多くあります。空き家を相続した場合には、まずは、
- 相続登記をする⇒売る
- 贈与する
- 貸す・維持管理する
などの方法をなるべく早く考える必要があります。
家は、住む方がいなくなった瞬間に急激に劣化していき、雪での倒壊や小動物(鳩、猫など)が住み着くリスクがあります。
空き家の相続が発生した場合には、専門家に一度相談して対策を考える良いでしょう。たまき行政書士事務所では、空き家の相続の他、相続全般のご相談をしておりますので、一度お気軽にご相談してみてください。
また、たまき行政書士事務所では、事務所併設のさくはな不動産にて空き家の売却の仲介も可能です。
参考記事
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